宝暦6(1756)年、安中城下(現在の群馬県安中市)で饅頭の製造・販売を始めた丸田屋総本店。その技は絶えることなく脈々と受け継がれてきた。260年もの間、和菓子ひと筋で技を磨いてきた丸田屋総本店で洋菓子がつくられるようになったのは18代目の時から。19代目田村昌義氏は、本業の和菓子を専門学校で学び、東京、埼玉で和菓子の修行を積んだ。18代目である父の和洋菓子をつくる姿を見て育った19代目は、最後の修行の場を前橋の洋菓子店に求め、洋菓子の技術も習得した。
「自分が学んだ和と洋の技術を融合させたお菓子をつくりたい」。そう考えた田村氏は試作を重ね、ついに「生クリーム大福」にたどり着いた。宮城県産のもち米と北海道産の小豆や生クリームを探し当て、理想の味を完成させたのだ。
それぞれの素材について田村氏は「モチモチした食感が特長のもち米。香り高く濃厚な味わいの小豆。生乳の風味があふれる生クリーム。このうちのどれが欠けてもこの味はつくれません」と語る。
丸田屋総本店の生クリーム大福の特長は何といっても「食感と味の絶妙なバランス」だ。その秘密を尋ねると「手づくりだからこそ、この舌触りとフレーバーのハーモニーが生まれるのです。複数の素材をお餅にくるむことができる機械はありますが、それだとこの味わいは出せません。手で包みこむからこそお餅、生クリーム、餡子の順番で味が広がる…。それぞれの素材も相性を考えて甘さなどを調整しています」。餅は極力薄くなるように包むが、大福の上と底では微妙に厚さを変え、底の餅が厚くなり過ぎないようにする。食べ終わった時の印象が軽やかになるからだ。
また加工を容易にするため、生クリームはあらかじめ冷凍しておいたものを使用する。現在、生クリームと餡を餅でくるむ作業は田村氏を含めて3人しか担当することができない。「餅を同じ分星だけ絞り出すのにも数年かかります。きれいにくるむところまで含めると、個人の資質もあるので一概には言えませんが、10年経ってもできない人もいるほどです」。この技術の高さが最高の食感を支えているのだ。
「冷凍状態でお届けしますので、夏場の室内で20分くらい置いておくと半解凍となり、アイスのような食感が楽しめます。さらに長く置いておくと完全に解凍され、生クリームと餡そのものの味を感じることができるはずです。季節や場面でお好みの食べ方をお楽しみください」。こだわっている食感の最後の演出は、消費者が選べるようになっている。どちらの食感にも自信があるからできることだ。
独特の食感と豊富な味のバリエーションは、全国のお菓子ファンから絶大な支持を得ている。また、その味は海を越えて世界中の顧客の舌を満足させている。国内での人気が海外のバイヤーの目に留まったのだ。
通常、和菓子を冷凍する場合は、-20℃程度で問題はないとされる。しかし、ある研究機関で、さらに低温で急速冷凍したものの方が細胞の大きさが均一に保たれ、解凍時の味の再現性が高まることが分かったのだ。そこで丸田屋総本店では急速低温冷凍できる冷凍庫を特注。また近年著しく進化した冷凍輸送技術により、遠隔地でも店頭売りと同じ味が堪能できるようになった。
こうした最新技術により海外展開も可能となり、定期的に冷凍コンテナで出荷している。「でも、やはり日本のお客様を第一に考えたい。海外からの注文はうれしい反面、国内販売用のものが品薄になりかねないので、複雑ですね」。手づくりにこだわるからこその悩みといえそうだ。田村氏のお勧めの味を聞くと「私が好きなのはコーヒーなのですが、お客様の人気が高いのはバニラですね。そのほかにも旬の味をくるんだ季節限定の味も折々提供しています」。これからも、生クリーム大福が奏でるハーモニーから目が離せない。